「説明を続けてもよろしいですか?」
ギルドマスターのお爺さんがすっごい勢いで怒ったもんだから、みんな黙っちゃったんだよね。
そんな周りをルルモアさんは一度見渡したから、こう言ってお話の続きをし始めたんだ。
「それでは続けます。先ほどももおう仕上げた通り、奴隷購入にはイーノックカウに住居を構える必要があるのですが、これに関して冒険者ギルドは口を出す権利を有しておりません。ですから保証人と同様に、フランセン様に手配をお願いしたいのですか」
「ああ、それに関しては、私に心当たりがありますわ」
でね、お家を買うのは冒険者ギルドじゃどうにもならないからって、ルルモアさんはロルフさんにお願いできない? って聞いたんだよね。
でもそれを横で聞いてたバーリマンさんが、そっちは任せてって。
「ギルマスよ。何か良い案があるのか?」
「ええ。事業に失敗した例の準男爵の土地、あれの管理を私が任されているので、そこを使おうと思っているのですよ。あそこならば錬金術ギルドからも近いし」
そんなバーリマンさんに、ロルフさんがどっかいいとこあるの? って聞いたんだ。
そしたらバーリマンさんちが借金の代わりにもらった土地があるから、それを使おうって言うんだよ。
「なるほど、あれか。じゃがギルマスよ。ちと広すぎるのではないか?」
「あら、大は小を兼ねると申しますし、この街は現領主様のおかげで少々手狭になってきているでしょ? 別の場所を探して譲ってもらおうと思ったら、あの場所を使う以上にお金がかかってしまうかもしれませんわ」
今の領主様はね、いろんな土地でおいしいものを出すお店を見つける度に、イーノックカウにお店を出してって頼んでるんだって。
そのおかげで帝都よりもおいしい店が多いからって、いろんなとこから観光に来る人が多くなってるそうなんだ。
だからね、そう言う人たちのために泊まるところを作ったり、そこで働く人たちの住む場所を作ったりしたもんだから、街の中の土地が少なくなってるみたいなんだよね。
「うむ。言われてみれば確かにそうかもしれぬのぉ。それにじゃ、いくらルディーンが住む事は無いであろうとも、あまり治安が悪い場所に家を構えるわけにはいかぬか」
「ええ、そうでしょう。その点あそこは商業地区にありますから、警備の者が常に見回っておりますもの。治安と言う点では申し分ありませんわ」
バーリマンさんが言ってる土地ってのはね、ほんとは準男爵って人が新しく商会を開くために買ってた土地なんだって。
でもその人はお店を開く前に商売で大失敗しちゃって、すっごい借金を作っちゃったからバーリマンさんにその土地を買ってもらったそうなんだよね。
だから普通だったら余ってるはずがない商業地区の土地をバーリマンさんが持ってるんだってさ。
「えっと……その土地ってもしかして、新しく館が建てられたにもかかわらず放置されている、あそこですか?」
「あら、流石は冒険者ギルドでも古株のルルモア。ここから蓮こそ離れていると言うのに、よく知っているわね」
「それはそうですよ。商業地区のはずれとは言え、あれだけの土地が使われずに放置されているのですから。でも、本当によろしいのですか?」
「いいのいいの。持っていても私が商会を開くなんて事はあり得ないし、他の人に売ろうと思ってもあそこだとなかなかむつかしいでしょ? その点ルディーン君なら問題ないもの」
でもね、それを木苛ルルモアさんがほんとにいいの? ってバーリマンさんに聞いたんだよ。
そしたら大丈夫だよって笑ってから、バーリマンさんはルルモアさんの手を引いて、おへ世の隅っこに引っ張ってったんだ。
■
「実を言うと、商業ギルドから何とかしてほしいと言う話がうちに来ているのよ」
「一体何のお話でしょうか?」
「あら、ルディーン君の事に決まっているでしょう?」
バーリマン様は私を部屋の隅まで連れて行くと、今現在の状況を私に話し始めた。
それによると、商業ギルドにおけるルディーン君の預金がかなりの額になってしまっているから、それを何とかしてほしいとバーリマン様とフランセン様の所にお話が言っているようなのです。
「ルディーン君が発明した簡易冷蔵庫とクーラー、あれが地下時価本格的に売り出されることになっているのはあなたも知っているわね?」
「はい、その二つが売り出されると言う話は私の耳にも入っているのですが……あれってルディーン君が考えたものなんですか?」
「あっ、そう言えばあれは秘匿特許扱いになっているんだったわ。この事は他言無用で」
そう言うとバーリマン様は、そう言って人差し指を口の前に建てると、そのままお話の続きをなさいました。
「そのうち、クーラーと言う魔道具はまさに画期的な発明でしょ? だから帝国のほぼ全部の都市にある大商会から販売を許可してほしいと言う申請が来ているらしのよ。でも特許申請の関係上、商業ギルドにも預金口座があるにもかかわらずギルド会員になっていないのよね」
「ああ、なるほど。それではその預金の運用ができないのですね?」
「話が早くて助かるわ」
冒険者ギルドでも錬金術ギルドでも、ギルドカードを持っていればどこのギルドに預金していてもそれを使う事ができるようになっている。
これは各ギルドが相互協力をすると言う協定を結んでいるからなんだけど、それでも預金そのものは各ギルドごとに分かれているのよね。
なぜかと言うと、各ギルドがその預金を運用して利益を得ているからなの。
だから預金額が多いギルドほど運営に余裕があると言えるんだけど、その運用にも規則というものがあるのよ。
それは預金者がその資金運用に同意しているという事。
これは普通、ギルドに所属している時点で同意しているとみなされるからわざわざ書面などに起こす必要はないのだけれど、これが今回は問題になっているみたいなのよね。
「ルディーン君は冒険者ギルドに所属しているでしょ? だからギルドカードを持っているって事で私たち錬金術ギルドにも所属してもらっていないのよ」
「錬金術ギルドにもですか? それじゃあ殆どつながりのない商業ギルドになんて、登録しているはずないですよね」
「ええ。でもそのルディーン君の預金がかなりの額になりそうで、商業ギルドにも登録してほしいという打診が私たちの所に来てるのよ。でもルディーン君は商売なんてやってないでしょ?」
基本、商業ギルドというものは商人が入るところなのよね。
なのでバーリマン様とフランセン様の間で、いくらギルド預金が多くても商人ではないルディーン君が加盟するのはおかしいと言う話になったらしいの。
「だから商業ギルドにその話をしたところ、それならばその預金の一部だけでも使って欲しいと言う話になったのよ」
「商業ギルドとしては、その取引による利益だけでも欲しいと言う事なんですね」
「ええ。流石に商業ギルドとしても、まだ8歳のルディーン君に新たな特許を管理する商会を立ち上げて欲しいなんて無茶は言えなかったみたいね」
バーリマンさんはそう言って笑ったんだけど……私はこの話を聞いて、一つ気になる事があったのよ。
「あの、バーリマン様。ルディーン君の特許に関してですか、クーラーと簡易冷蔵庫のお話しか聞いていらっしゃらないのでしょうか?」
「だけって……ええ、私にはその話しか伝わっていないのですけれど、その他にも何か?」
「はい。実は私が懇意にしているお菓子職人がおりまして」
確かアマンダのいるお店が、卵の新しい使い方の特許をルディーン君の名前で申請したはずなのよね。
それにフランセン様からパンケーキなどの新しいお菓子の特許申請もされていると、確かその店のオーナーが言っていたはず。
それを思い出した私は、その事をバーリマン様に尋ねてみたのよ。
「あっ!」
するとバーリマンさんはかなり驚いた顔をなされて、
「そう言えばそちらも商業ギルドへの特許申請でしたわ。私とした事が、失念しておりました」
「その後様子からすると、フランセン様からの特許申請もご存じなのですね?」
「ええ、その場に私もいましたから。でも、卵の調理法に関しては初耳ですわ」
流石にご自分が関わっていない事はではご存じなかったようですけど、パンケーキの件からそちらもいずれ商業ギルドで騒ぎになるかもしれないとバーリマンさんは額に手を当てながら小さく頭を振った。
「まぁパンケーキに関しては領主様が関わっていらっしゃるからすぐにどうこうなるという事は無いでしょうけど、商業ギルドに関しては一度伯爵とお話しする必要があるかもしれませんわね」
「それとルディーン君の親御さんともです。冒険者ギルドの預金に関しては、一定額以上は使えないようにして欲しいと頼まれておりますから」
「それについてはハンバー司教様がいらっしゃいますから、そちらに頼むのがよいでしょう。今グランリルで司祭をなさってらっしゃいますから」
あのお方ならばうまくお話して下さるでしょうと、小さく笑うバーリマン様。
確かにこれからもこのような事は何度か起こるでしょうから、そのたびにカールフェルトさんたちを呼びよせるのはかわいそうですものね。
「司教様でしたら、これからもお力になっていただけるでしょうね」
「ええ。ハンバー司教様にはある事柄で錬金術ギルドにご協力頂いている事ですし、何かがあればその定時連絡のお手紙でお知らせする事に致しましょう」
私とバーリマン様はそう言うと、これから多大なご迷惑をかけるであろうハンバー司教様に二人して小さく頭を下げるのだった。
ルディーン君の知らないところで、商業ギルドが大変な事になっていました。
そしてルルモアさんたちの想像通り、まだ知られていないアイスクリームなどのお菓子やお尻が痛くならない馬車、それに魔道三輪車などと言うとんでもない者も後ろに控えているんですよね。
それらが本当に商業ギルドに登録されるかどうかは今の段階ではわかりませんが、それらが登録されなかったとしてもルディーン君の暴走がこれで終わるとは思えません。
お爺さん司祭様、心労でまた頭が薄くならないといいけどなぁ。